コレクティブインパクト。それは様々な場所で活躍するセクターや関係者が互いに連携しあい、共同して複雑化する社会課題に取組むための枠組みです。このコラムではIKUNO・多文化ふらっとに関わるそのような多様な人々の「いくのパーク」への想いを届けます。
学校跡地を活用した「いくのパーク」の挑戦
NPO法人IKUNO・多文化ふらっとは、2019年6月に発足し、大阪市生野区において市民主導の多文化共生のまちづくりを目指すプラットホームのようなNPOです。長年生野区で地域活動を担ってきた実践者と、この地で研究のきっかけやかかわりを持ち続けてきた研究者などが集まっています。2021年3月に閉校になった同区にある大阪市立御幸森小学校跡地の活用事業にかかわり、企業との共同事業体を構成し、公募型プロポーザルを経て、民間事業者として選定されました。
NPOと企業の共同事業体による多文化共生のまちづくりへ
生野区は区民の5人に1人以上(21.75%)が外国籍住民であり、その比率は全国自治体の中で最も高いです(2021年1月現在)。朝鮮植民地支配の結果、日本への渡航を余儀なくされた在日コリアンの集住地域であることに加えて、近年は約60か国の外国ルーツを持つ人々が暮らす多国籍・多文化のまちに変貌しつつあります。子どもの貧困化も進んでおり、就学援助率は全国平均の2倍以上です。空き家も5軒に1軒以上あり、未来の日本の都市部の社会課題が集約する「課題先進エリア」ともいえます。
一方で、年間200万人の来街者で賑わう大阪で有数の集客力を誇る大阪コリアタウンもあり、NPOや地縁団体も含めて市民セクターの潜在力はとても高いといえます。何事もそうであるように成長するのも衰退するのも、ある時点で「飛躍」があるものです。はたして10年後に生野のまちは、生き生きと成長している姿を見せるのか、とろとろと力なく衰微している姿を見せるのか。そうした中、今年(2022年)4月から大阪コリアタウンに隣接する小学校跡地を活用してNPOと企業の共同事業体が運営主体となり、20年間の長期にわたる多文化共生のまちづくりの取り組みが本格的にスタートしました。
「いくのパーク」が目指すこと
「いくのコーライブズパーク」(略称:「いくのパーク」)は、「大阪市生野区における多文化共生のまちづくり拠点の構築を通じて、誰もが暮らしやすい全国NO.1のグローバルタウンを創る」ことをビジョンに掲げました。パートナーである株式会社RETOWNの松本篤代表の言葉に腹落ちします。「RETOWNはリスクテイカーだ。まちづくりを評論する有識者は数多くいるが、自らリスクを取って汗をかく事業者は少ない。現実を受け入れつつ変化を楽しみながら、ともに地域に貢献していきたい」。
「いくのパーク」では、災害・避難所機能、地域コミュニティ機能、多文化・多世代、新しい学び機能の3分野において、9事業の33活動が構想・企画されています。運動場は芝生化し、体験農園も整備します。文字通り「公園」として市民に開かれます。財源は初期投資・維持管理費をはじめ、すべて共同事業体の自主財源です。逆に大阪市に賃貸料を支払うことになっています。財源は各種テナント料やルーフ・トップのBar&焼肉店などの収益事業や委託事業等で賄います。共同事業体のNPO事務所や企業本社は「いくのパーク」に移転しました。課題も山積みですが、私たちも「変化を楽しみながら、地域に貢献したい」と決意を新たにしています。
多文化共生のまちづくり拠点を構築する理由
私たちが学校跡地に多文化共生のまちづくり拠点を構築する理由は、多文化共生に関わる抽象的な「理念」のためではありません。個人と環境の相互作用が生み出す矛盾は常に具体的です。私たちが学習支援をしている子どもたちの中にも、いろいろな事情を抱えながら人一倍頑張っている子どもたちも多いです。難民申請中の仮放免で、いつ強制送還されるかもしれない不安の中で、地元の公立学校に通っている中学生がいます。タイと日本のダブルルーツの子どもは両親の離婚により、いまは一人で懸命に仕事をして、真面目に通信制高校に通い、日々生活しています。教育、福祉、医療などの生活課題を抱えて立ち尽くす、日本語が不自由な外国ルーツのひとり親がいます。一人ひとりの基本的人権の問題が、日々の地域・生活の中に横たわっています。国籍や民族などの出自の違いや家庭環境の格差が、人生の選択肢を狭めることにつながってはなりません。
マジョリティ側の日本社会にとっても、こうしたマイノリティの存在は得難い存在です。これからの時代は予測不可能な目標をさまざまな職種やセクターの横断的で共創的な取り組みを通じて、試行錯誤を経ながら解決に向かう時代です。未来に必要とされる新しい価値や社会的仕組みは、同質性の中からではなく、多様性の中から生み出されます。多様性とはバラバラであるということだから、そこには「自由の相互承認」のための摩擦や葛藤が必然的に生まれてきます。「危うさ」を抱きしめながら、前に進む勇気が必要なのでしょう。
地域における「共生のとりで」を目指して
地域にこだわりローカリズムの井戸をどんどん掘り進めていくことによって、「均質化」を本質とするグローバル化と国家の「宿痾」を規制していくことにつながるかもしれません。近代以降の経済成長モデル自体が限界の「悲鳴」を上げています。「分断」「格差」「紛争」などの時代が直面する最先端の問題の解決に向けたヒントが隠されているかもしれません。私たちは、過度な「自己責任」の風潮や「排外主義」の大波に抗する、地域における「共生のとりで」を構築したいと考えています。私たちは寛容で多様性があふれる地域社会、「誰一人取り残さない」多文化共生のまちづくりに挑戦します。
※大阪大学社会ソリューションイニシアティブ(SSI)ホームページ「マンスリー・トピックス」より転載